千葉県都市計画公聴会における意見陳述全文



2003(平成15)年5月17日

 

柏市 三田村元孝



この度の「つくばエクスプレス」の柏市沿線開発地区を見ますと、北部中央地区の開発面積は約272.9Ha、北部東地区が約169.9Ha、合計約442.8Haであり平成10年時の約444Ha(首都圏新都市鉄道株式会社発表「常磐新線事業の進捗状況 平成10年6月1日」)と殆ど変わっていません。

  • 鉄道の事業計画見直しの影響

  1.  しかるに、この開発の中心となる鉄道(つくばエクスプレス)については、平成9年に引続いて大幅な見直しが行なわれ、事業計画の見直しが本年1月24日に発表されました。見直しは、建設費から資金計画、輸送需要の見込み、採算見通し(最終黒字転換年を44年後)等多岐にわたって行なわれましたが、その中で最も開発地域に影響を与えるのものは、鉄道の運行本数でありましょう。即ち、運行本数の多少は、直接的にその鉄道の利便性にかかわってくるからであります。
     
  2.  言うならば、柏市の沿線地域開発は、つくばエクスプレスが当初、予定運行本数、朝のラッシュ時には1時間に片道24本という計画の上に立てられた計画とも言えます。しかし、この運行本数は、この度の見直しで16本と大幅に低減されました。そして、その内容は、つくば発5本、守谷発11本となっています。これについては、私が鉄道会社を訪問、確認しておりますから間違いありません。そして、つくば発は守谷からは全本数が快速運転になることは、既に発表済みであります。また、守谷発にも守谷快速が設定されています。この守谷快速を4~5本と見込むと、いわゆる、各駅停車の鈍行本数は、6~7本となってしまいます。
     
  3.  そこで、一番の問題は、柏市の開発地区の2駅に快速が止まるか否かということであります。残念ながら、流山市の新市街地地区の駅は東武野田線と交差していて、そこに快速が止まる可能性が高いということを考えるなら、柏市の2駅は快速の通過駅になってしまうと考えるのが最も自然であります。すると、柏市の2駅は朝のラッシュ時にも、ほぼ10分間隔の1本程度の運行本数という甚だしく利便性に乏しいものとなってしまいます。
     
  4.  ちなみに、最近の時刻表によれば、東武野田線は5分間隔、新京成線は4分、東葉高速線でも7分間隔になっていて、それに比較すると守谷発11本が全本数止まらない限り、東武野田線、新京成線の利便性に劣るということになります。
     
  5.  即ち、利便性が劣れば、それだけ新たな定住人口の増加は期待できないと考えるのが最も妥当な考え方だと指摘しておきます。換言するならば、利用人口が増えれば、鉄道の運行本数が増加すると言えますが、運行本数の多い利便性の高い地域に人口増加が見られるという面も否定できません。そのことを考えると、10分間隔に1本程度の運行本数の鉄道は、ローカル鉄道であり、幹線鉄道ではないと言えます。


  • 計画人口の減少修正
 
  1.  そして別の面、計画人口の面から見てみますと、「21世紀に向かっての地域づくり 常磐新線」という小冊子によると、その12ページに「①常磐新線沿線地域の人口フレーム 計画フレームの目標年次は、鉄道開業から一定期間を経過し、市街地整備や機能定着がはかられた2020年頃とする。」と書かれていて計画人口を2020年(平成32年)頃の達成としています。そして、柏市の北部開発地域2地区の計画人口は、4万3000人とされていますが、平成9年に発表された柏市一般廃棄物処理基本計画(改定版)にては、その40ページに於いて「(3)北部新市街地における人口予測 常磐新線沿線の北部新市街地における計画人口は約7万人から7万6千人となっている。」と述べられており、その時の想定年次や地域範囲が必ずしも一致しないとしても、大幅に下方修正されたことがうかがわれます。
     
  2.  また、北部開発定住人口として、柏市は平成22年には1万6000人、27年には2万7000人を予想していますが、前述の基本計画での開発増加人口では22年は1万6000人と一致していますが、27年では4万人を予想していて、現在予想の2万7000人は1万3000人の減少となっています。更に、基本計画での開発増加人口は平成30年で4万7000人を予想しており、32年頃の計画人口4万3000人を上回っていて、平成9年当初予想を相当に減少修正しています。即ち、それだけ宅地への需要が減少していることを認めているということになります。


  • 開発地区の人口密度
 
  1.  また、柏市の開発2地区、北部中央地区(面積:約272.9Ha 計画人口:2万6千人)、北部東地区(面積:169.9Ha 計画人口:1万7千人)を人口密度でみると、それぞれ1Ha当たり95.3人、及び100人となります。これを隣接の流山市にも見てみると、木地区(面積:約68Ha 開発人口:6千8百人 100人/Ha)、西平井・鰭ケ崎地区(面積:約52Ha 開発人口:5千百人 98人/Ha)、運動公園周辺地区(面積:約232Ha 開発人口:2万7千4百人 118人/Ha)、新市街地地区(面積:約286Ha 開発人口:2万8千6百人 100/Ha)となっており、全地域が1Ha当たり100人程度となっていて、全く特色がありません。これを極論すれば、開発地域1Haについて100人を機械的に当てはめて計画人口にしたと言えます。
     
  2.  開発地域にもし、商業地域が多ければ、人口密集型となるであろうし、自然を売り物にし、田園型暮らしを特色にするなら、人口密度は比較的少なくなります。それが、千葉県の開発5地域の人口密度が殆ど同じということは、どの地域も同じような宅地主体の開発となることを物語っています。まさにこれは、宅地を開発すれば必ず売れるというバブル時代の発想であり、計画であります。
     
  3.  バブルは崩壊し、人口の減少が始まらんとし、東京への回帰化が言われる時、もはやこの発想・計画は通用しないことは火を見るより明らかなことであります。更に、このように没個性的な開発をするなら、当然東京に近い地域がより有利となり、なおかつ、快速電車の止まる、止まらないは開発地域への人口増加へ死活的影響を与えかねないことになります。そうなると、柏市の2駅周辺開発は圧倒的不利となり、計画の破綻は免れず、財政的負担は多大なものとなり、子々孫々まで負担をかけるものとなりかねません。


  • その他
 
  1.  また、つくばエクスプレスの沿線開発は、東京都民の宅地需要を見込んだ宅地造成主体の開発であります。しかし、昨年10月に東京都の日比谷公園にて行なわれた鉄道フェスタバルに首都圏新都市鉄道株式会社も参加し、そこで行なった沿線地域の知名度、人気度の調査アンケートの結果をホーム・ページで発表しています。それによれば、トップは秋葉原、2位はつくば等名前を連ねていますが、八潮から守谷までの間に8駅あって、5つの駅名はあがっていましたが、柏市の2駅と流山市の1駅はついにその名前が記されていません。即ち、守谷までの区間では柏市の2駅は知名度、人気ともに悪く、私は柏北部東駅が最低と推定していますが、東京都民へのPR活動が全くなされていないということもここで指摘しておきたいと思います。もっとも、PRするべき特色があればの話ですが。
     
  2.  さらに、柏北部中央地区では、職住近接の立場から相当量の工業地域の開発を予定しています。しかし、昨年11月に県企業庁の方を招いて、お聞きしたところでは、この工業地域に進出を約束された企業は未だ1社もなく、またその見込みも立っていないということであります。現在及び未来の経済及び産業を考える時、未来永劫その招致は難しく、幕張メッセ、上総アカデミア以上の赤字事業になるものと予想されるものであります。
     
  3.  そして、これは人づてに聞いた話でありますが、JR東日本では、内部による独自調査の結果、つくばエクスプレスの開業の影響は常磐線へ殆どないと結論ずけているとのことであります。このことは、常磐線沿線からつくばエクスプレス沿線への移動も殆ど期待できないということであり、東京都民はもとより、近郊からの人口移動も期待できないことを意味していると考えるものです。勿論、つくばエクスプレスは常磐線の混雑緩和に殆ど役立たないという意味にもなります。 


  • 結論
 
 以上指摘したことを勘案しますと、膨大な税金を投入して自然と農地を破壊してまで、広大な地域を開発するこの計画自体が全く無謀なものとしか言いようがなく、その破綻は間違いないものであります。

 即ち、現計画を速やかに見直し、鉄道の運行本数、地価動向、人口移動状況等を踏まえた達成可能な、身の丈に合った計画に縮小すべきであることを提言いたすものであります。

                         

以 上

 

公述趣旨書
2003年5月17日
千葉県知事 堂本暁子様
柏市 遠藤哲人(えんどうてつと)

 

2003年4月1日の広報かしわにお知らせのあった「都市計画区域の整備、開発及び保全の方針」並びに「区域区分」の都市計画に関する千葉県都市計画公聴会に際して、別紙のとおり公述の申し出をします。

 

■表題 「『都市間競争を前提とした都市開発』ではなしに
『暮らしやすさを前提としたまちづくり』へ」



、都市計画決定のやり方にもっと議論できる機会を設けてください
 このマスタープラン作成の公聴会については、いろいろこれまでの「しきたり」もおありでしょうけど、ぜひ2001年12月の土地収用法公聴会(常磐新線)のレベルくらい一定の時間をおとりいただき、また質疑応答のできるように、改善をして下さることをお願いします。とりわけ柏会場では公述人は4人で、会場は2時間は確保されているようですがから、15分スピーチ、15分応答というように質疑応答、ディベートのを行うことは、物理的にも十分可能なことです。いつまでも1969年法の「公聴会規定」レベルから一歩も出ないレベルでは、時代の将来を見通そうというマスタープランの公聴会のあり方にはなじみません。

 また当日記録を内外に伝える、インターネット、ホームページに流すくらいのことはぜひお願いします。


、時代に即応して旧来の都市計画を大胆に見なおしてください
 全体として既存計画をそのまま載せているように思われますが、既存の計画は、いまきびしく時代の変化、価値観の変化の中で見直しを迫られているように思われます。その点では、この区域マスタープランは、既存計画を大幅に見直す中で作成するべきではないでしょうか。

 第一に、例えですが、常磐新線開発関連で北部中央駅周辺開発などは、これまでどおり商業・業務施設の集積を前提とした計画を載せているようですが、いまや東京都心部の業務施設も六本木六丁目のオフィス床が八割しか埋まらない事態にみられるように大幅な需要減退という事情にあり、こういう中にあって依然として80年代の発想で都市計画上で過大な業務施設供給をオーソライズすることは見直すべきだろうと思います。

 あるいは、私の住んでいる藤心地域は、いわゆる「大都市法」の住宅市街地整備方針★というマスタープランに奇妙なことにスポット的に位置づけられ、都市計画決定をされているところですが、これなども見直すべきものではないかと考えています。現場は柏市内でも数多くの生産緑地の都市計画決定を受けているところで、この制度の趣旨を便宜的ではなしに忠実にうけとめれば住宅開発地に向いているとはいえないところだろうと思います。過去のマスタープランでの整合性のなさ、いわば混乱、便宜主義ともいうべきものもこの機会に見直し、整理して区域マスタープランとするべきものだと考えています。

 第二に、人口構造の変化、住宅要求などの東京都心へのシフト、高齢化などを考えますと、かねてより柏市長の本多さんの提唱される「新開発」「再開発」で新しい住民をよびこみ都市・土地の付加価値を高める「都市間競争」論理は時代のニーズにあっていないように思われます。

 柏市居住歴20年程度の住民は、柏市の人口構成では三分の二近くの多数派となっています。そういう住民からみれば、「都市間競争」の論理ではなしに、既存の市街地を中心として必要な手直し整備をこつこつ積み上げていくというような「生活発展型のまちづくり」ともいうべきものを考えていただきたいと思います。その点では、郊外地型開発の典型である常磐新線開発の規模縮小、調整区域での緑の保全につとめること、市街化区域内もいたずらに幹線道路を縦横無尽に整備するのではなく、必要に応じて段階的に整備し、その場合もできるだけ緑の保全につとめることなどを検討して欲しいと思います。


、首都圏域でのさまざまな計画ともっと調整して下さい
 郊外地の新規開発は柏市域だけではなく、近隣市町村でも数多くの計画があります。区域マスタープランは、県内都市計画区域を55地区に区分して制度化するという説明を受けています。そしてここでは柏地域での計画が議論の対象となっていますが、都市計画区域としては広域的な視点でさまざまな計画を体系化しコントロール、促進ないし抑制、調整するのが精神かと思いますが、その点ではもっと広域的な視点の調整が必要だと思います。たとえば、今回の区域スタープランで位置づけのある柏北部開発ですが、常磐沿線開発では、三郷の超高層四十数回建てマンション計画から、流山新市街地整備計画など、それぞれの計画が勝手に野放図に計画されています。こうした事態を追認するだけならば、言葉は悪いですが、マスタープランにおける「総合性」「広域性」の原則にももとる、たんなる開発のカタログになりかねません。


、柏市内での計画議論を優先させて下さい。
 柏市の場合は、市町村マスタープランがこれからの作業課題だということですが、この今回の区域マスタープランが上位計画として位置しますと、市町村マスタープランを住民参加でつくるといっても都市計画法上の制約条件となってしまいます。その点では、柏市域についてのマスタープランとしては、もっと大ざっぱなものにするべきものではないかと考えています。市町村マスタープランにおける住民参加は、けっきょく上位計画の「納得参加」が条件となってしまい、住民参加は形だけのものになりかねません。


 以上を、勘案して再度、素案の練り直しをお願いいたします。

 

■最近の土地区画整理事業の破綻の様相と「再建」実態を追う



三方一両損路線か、まちづくりの路線か
――鋭く問われた「破綻処理」の二つの視点――



遠藤哲人
(月刊「区画・再開発通信」編集委員、柏市藤心在住)



さる8月30日夜、区画整理・再開発対策全国連絡会議では、東京ボランティアセンター会議室で「区画整理破綻シンポジウム」の第二回目を開いた。2000年9月に開いたシンポジウムに引き続くものである。当日は、静岡など遠方からの出席者も加え30名が熱心に討議を行った。前回シンポジウムの成果は、『区画整理・再開発の破綻』なる本にまとめたが、今回は、この三年間での事態の新しい展開を探った。

そこで明らかになったことは、ひとくちに言うと「破綻処理を進める視点」が明確に問われたことだ。国や行政などの主導する「三方一両損」路線で「破綻」をとりつくろうか、「住民のまちづくりの立場」で問題の解決をはかるかの争点だ。

 

●三つの事例報告を貫く論点

シンポジウムでは、今西一男「区画・再開発通信」編集長(福島大学助教授)の問題提起を受けて三つの事例報告があった。住民主導で区画整理事業計画の見直しからまちづくりへ努力している埼玉県東松山市和泉町(東靖夫氏)、売れない保留地処分に究極の企業進出・場外車券売場進出の茨城県鹿嶋市平井東部(立原弘一氏)、サラリーマン住宅への過酷な再減歩に反対して運動をする千葉県野田市関宿台町東(平川辰巳氏)である。

東松山市和泉町の報告は、いわば住民の暮らし、生活者の立場からの「破綻処理」を進めた経験だ。市施行の区画整理だが、これまでの事業計画では50年はかかり、市財政にも大きな負担となって事実上、にっちもさっちもいかなくなっていた事例である。当初、市は区画整理見直し委員会のようなものを立ち上げ、区画整理や既存都市計画の枠内での見直しを模索していたというが、それまでも大きな反対運動を展開していた区画整理に反対する会では、まったく白紙からの見直しを要求。ついに市はこの要求に応え、まちづくり委員会を組織した。一年間をかけて見直しを検討することになった。その結果、ついに区画整理事業という全面的な都市基盤整備方式をやめて、住民が必要とする住環境整備・まちづくりを限定的にすすめるべし、との答申を市長に提出した。いま市はこの答申概要を住民に配布しながら、説明会を開催している。他方、市はすでに通知していた四分の一の仮換地定を取り消す案件を区画整理審議会に諮問した段階である。

他方、鹿嶋市平井東部の処分できない保留地に場外車券売場進出の事例、野田市関宿台町東のサラリーマン住宅への再減歩の事例は、これ自体は、国などが押し進めようとする「三方一両損」路線ともいえるものだ。「三方一両損」路線とは、「事業破綻」に際して、地権者が泣き、金融機関・ゼネコンが泣き、そこへ自治体が税金投入で泣く、といわば無原則に負担を分け合う「破綻処理」である。負担の分かち合いで「事業採算」をとるもので、その観点からは、「場外車売場進出」「サラリーマン住宅」への再減歩などは地権者の「自助努力」であり、次なる税金投入の呼び水と位置づけられるものだ。

しかし工業団地と住宅地造成を目的にした区画整理が、企業進出なしということで、車券売場に転ずることは、はたしてまちづくりなのか。討論の中では、場外車券売場進出地の周辺は、どこでも荒れ放題、青少年の育成に重大な影響を与えているという指摘があった。鹿嶋でも青少年育成市民会議(鹿嶋市から援助を受けている青少年育成のための組織)のお母さんたちが一念発起してこの小さな町でなんと8000名におよぶ反対署名を集めたことが報告された。たんなる「事業採算路線」に対して「住民のまちづくり」要求を対置したかっこうだ。野田市関宿の事例も、県道整備を主目的にした組合区画整理でたまたま巻き込まれ、街区や生活道路も何も変わらず、現位置換地・存置街区でなんで清算金徴収が三倍となり200万円を超える清算金負担をしなければならないのか、「生活者としての利用増進」が何もないところでの不当な負担である。無原則に「事業採算」さえとれればいい、というものではないはずだ。

事例報告は、三つとも、「破綻処理」について、生活者の立場、まちづくりの立場から大きな運動を組織し成果をあげ、あるいは厳しく告発した事例といえよう。

今後、各地で行われようとしている「破綻処理」をどうみるか、基本的な視点を提示したシンポジウムだったように思う。